防滑性能の評価方法について

1.摩擦力と摩擦係数

床の上に置かれた物体を動かそうとすると、それを邪魔しようとする力が物体と物体の間の接触面にはたらくが、この力を摩擦力:Fという。床面に押し付ける力(物体に掛かる重力と同じ大きさ)が強いほど摩擦力は強くなる。

摩擦力の大きさは、接触面の状態と押し付ける力の2つの要素で決まるが、接触面の状態がどれだけ摩擦力に影響を及ぼすかという指標が摩擦係数:μである。

物体が相対的に静止している場合の静止摩擦と、運動を行っている場合の動摩擦に分けられ、それぞれの指標は静摩擦係数:μと動摩擦係数:μ‘の2つに大別される。

摩擦力:Fは床面に押し付ける力(=垂直抗力):Nと摩擦係数:μ(又はμ‘)を用いて次式で表すことができる。

F = μN

  • 一般的に静止摩擦係数の方が動摩擦係数より大きく、動摩擦の方が滑り易い。
  • 動摩擦には相対運動の種類によって滑り摩擦と転がり摩擦の区別があり、一般的に滑り摩擦の方が転がり摩擦より摩擦力が大きい。
  • 摩擦面が流体(潤滑剤などの介在物)を介して接している場合を潤滑摩擦といい、流体がない場合を乾燥摩擦という。一般的に潤滑摩擦の方が乾燥摩擦より摩擦力が小さい。また、石鹸水やシャンプー、油等、介在物の種類によっては著しく摩擦力が小さくなる場合がある。

2.滑り性及び防滑性の評価試験

滑り性及び防滑性の評価については摩擦係数によるものが一般的であるが、摩擦係数を計測する方式(装置、試験機)には主に表1に示す様なものがある。

以下、それぞれの評価方式について解説する。

①【斜め引張式:O-Y PSM】

  • 東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアルの中で滑り性の推奨値に採用されているC.S.R値はO-Y PSMで測定する。
  • 測定試料(床材)に接地し静止している滑り片を斜め18度方向に引張った際の最大引張荷重Pmaxを重錘(垂直)荷重で除してC.S.R値を算出する。(物理学上の純粋な静摩擦係数ではないためC.S.R値と呼称)
  • 静止している状態からの最大引張荷重を計測する方式だが、引張方向が斜め18度上方であり、純粋な物理学上の静摩擦と異る。国際的に見ても特異な評価指標である。
  • 日本の建築分野では広く採用されており、JIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)に定める床材の滑り性試験によって測定される滑り抵抗係数(C.S.R)やJIS A 1509-12(セラミックタイル試験方法・第12部:耐滑り性試験方法)によって測定される素足の場合の滑り抵抗値(C.S.R.B)で試験方法が規定されている。

②【水平引張式:ASメーター】

  • 「ASTM F609-96」で採用されている試験方法。
  • 重錘を兼ねた試験機本体下部に滑り片がついており、水平方向に引張った際の動き出す瞬間の最大静止摩擦係数(μ)を算出する。
  • 試験方法や試験機の構造が単純、かつ純粋な物理学上の静摩擦を測定するものであるため、静摩擦を測定する目的で米国を中心に広く使用されている。

③【振り子式:スキッドレジスタンステスタ】

  • 英国の道路交通研究所で開発された試験機で、一般には自動車の走行速度 30 マイル(約 50km)/hの路面が濡れた状態の動摩擦係数と相関があるといわれている。
  • 測定は試料面に水を散布した状態で行い、振り子の先のゴムスライダーを所定の位置から振り下ろし、スライダーと試料間の摩擦による減衰を目盛りによって読み取る。測定値の単位はBPNである。(物理学上の純粋な動摩擦係数ではないためBPNと呼称)
  • 試験方法の規格として、ASTM E303 及びインターロッキングブロック舗装設計施工要領がある。地方自治体等のインターロッキングブロック舗装設計施工要領において「湿潤状態で40BPN以上」と規定されている。
  • 平面(路面)に対し、滑り片を円弧状に振り下ろす方式であり、純粋な物理学上の動摩擦とは異る。また、滑り片と路面の相対高さの微妙な調整が要求される。

④【水平自走式:FSC2000】

  • 重錘を兼ねた試験機本体下部に滑り片がついており、別途本体下部についた車輪の動力で水平方向に自走し、一定速度下での動摩擦摩擦係数(μ‘)を算出する。
  • ドイツで開発された試験機で、低速度下の物理学上の純粋な動摩擦を評価している。

⑤【回転円盤式:DFテスター】

  • 測定面(路面)と平行な円板に滑り片(ゴムスライダー)を取付け、円板を回転させながら測定面に、一定の荷重(試験機本体の重量)で押しつけ滑り片に作用するすべり抵抗力を測定する。すべり抵抗力を荷重で除して すべり抵抗係数(動摩擦係数)として記録する。
  • 円板は抵抗により回転速度を徐々に低下させ、この時の速度も測定し、すべり抵抗係数と速度の関係を表示する。
  • 測定面と滑り片接地面は常に平行を維持しているが、滑り片の進行方向は円弧を描きながら移動しており、物理学上の純粋な動摩擦係数とは若干異るため「すべり抵抗係数」と呼称している。

⑥【水平加速引張式:NA滑り試験機】

  • 測定試料(床材)に対し、滑り片を速度0.1m/sで接地させ(荷重250N)、接地後5m/s2の加速度で速度が0.5m/s以上に達するまで水平方向に加速させる。接地完了時(速度0.1m/s)から速度が0.5m/sに達する間の動摩擦係数(μ‘:COF)を連続的に測定。(図1参照)
  • 動摩擦係数は速度により変化するのが一般的であり、滑り中の水平移動速度の水準を分けて動摩擦を評価する必要があるが、NA滑り試験機は速度0.1m/sから0.5m/s間の加速中の動摩擦係数を連続的に測定可能であるため1度の試験で最も危険な(動摩擦係数が小さい)滑り速度の把握が可能。
  • 物理学的に純粋な動摩擦を測定している試験機。
  • 一般財団法人ベターリビングの優良住宅部品認定制度の中に「浴室ユニット」の認定がある。認定基準の評価方法の一つとしてNA滑り試験機による「洗い場床の動摩擦(転倒リスク度)試験」が規定されている。
  • NA滑り試験機は、国からの助成金を受け、独立行政法人労働者健康安全機構・労働安全衛生総合研究所と早稲田大学理工学術院、弊社(ドペル)の産学官共同研究の中で開発した万能型動摩擦試験機。