蓄光とは

1.蓄光の基本的なしくみ

蓄光とは一般的に、外部からの光の中、中心波長365nm(ピーク310~420nm、幅250~460nm)の光(紫外線)を蓄光体そのものが吸収(励起)し、波長490nm~520nmの光を発光する現象をいう。(蓄光体以外のものは光を吸収、反射するのみで自ら発光しない)

人の目では波長520nmの光は緑色、波長490nmの光は青緑色として認識される。蓄光体が暗所で緑色に光って見えるのはそのためである。また、明るい所でも淡く緑色に見えるのは、明所でも光の吸収と発光を繰り返しているためである。

例えば、自動車のバッテリーがダイナモを介して電気を蓄え、発電するしくみであるのと同様に、蓄光体は電気が光に置き換わったものと考えることもできる。この例えで言えば、バッテリーの発電時間が蓄光体の発光時間に相当し、初期電力が初期輝度に相当する。

2.蓄光体の発光輝度について

全ての蓄光体は消灯直後の発光輝度(初期輝度)が最も高く、紫外線等の励起光源がない暗所視下で徐々に輝度が減衰していき最終的には発光しなくなる。その減衰は蓄光体の種類や性能等に関係なく、下の両対数グラフに示すように時間(X軸)と発光輝度(Y軸)について、ほぼ直線的な減衰が見られる。

また、蓄光体にはそれぞれ飽和(励起)点があり、その蓄光体が持つ初期輝度及び発光時間に(それ以上にならない)限界がある。励起及び発光時の環境温度によっても初期輝度及び発光時間が変わることも判っている。例えば、環境温度が高いほど初期輝度は高くなるが発光時間は短くなり、環境温度が低いほど初期輝度は低くなるが発光時間は長くなる。

<グラフ> 蓄光体の発光性能

3.人の目の場合の認識について

人の目の場合、蓄光体からの発光に対する認識のしかたは蓄光体の周囲の明るさに大きく左右される。

例えば、蓄光体からの発光が100とすると周囲が全くの暗闇(反射光などが0の状態)であれば、人の目は100の光を認識できる(A)が、周囲の明るさが100であれば、蓄光体からの光は全く認識できない(B)。周囲の明るさが50であれば蓄光体からの明るさは50と錯覚してしまう(C)。(Fig.1参照)

暗室の中や夜間など人が暗いと感じる様な場所においては、月あかり、カーテンやドアの隙間からの光、スモールライトやフットライトなどのごく弱い光であっても、人の目は蓄光体からの発光の強さの感じ方に大きな影響を受ける。

この他、人それぞれの視力の違いや周囲の色など光反射率の違いなどにより、人が受ける明るさの感じ方は違ってくる。

人の目で長時間発光していることを確認する場合は、次項で述べるような周囲の光の存在や隙間からの浸入がない(A)の状態で確認しなければならない。

Fig.1

4.発光体の輝度測定方法

人の目は周囲環境や視力などケースバイケースで光の明るさへの感じ方が一定でないため、一般的には周囲の環境条件を定めた上、輝度測定機を用いた発光体の輝度測定を行い定量的な相対評価を行う。

当社においてはJISに準拠した方法で蓄光製品の発光時間を測定し、定量的な相対評価を行ったデータを資料等に記載している。具体的には、外部からの光の浸入が全くない暗室の中で、D65 200Lxの(Lxは単位面積当りに照射されている光線)の照度で飽和するまで光を照射した後、消灯し、発光体の輝度が3mcd/㎡(*1)になるまでの時間を計測している。(Fig.2参照)

因みに、高輝度誘導標識の認定基準ではD65 200Lxの照度で20分間照射した後、20分後と60分後の輝度を以下のように規定している。

S200級=250mcd/㎡、A200級=200mcd/㎡、B200級=150mcd/㎡、C200級=100mcd/㎡。

このように測定時の周囲環境条件を統一し、専用の機械で測定することにより、正確かつ定量的な相対評価を行うことができる。

*1 : 3mcd/m2は一般的に人が暗所で(Fig.1(A)の状態)はっきりと物を認識できる輝度をいう。

 0.3mcd/m2は暗闇下で人が物を認識できる最小限の明るさであるとされている。

尚、mcd/m2は単位面積当りに換算した光源の輝度の単位である。

 

<単位の説明>(Fig.3 参照)

lx(ルクス):照度の単位。照らされる場所の明るさのこと。

lm(ルーメン):光束の単位。光の量のこと。

cd(カンデラ):光度の単位。光の強さのこと。

cd/m2(カンデラ/m2):輝度の単位。ある方向から見たものの輝き。

 

<照度の例>

月光:最大 0.21 lx、曇った日の太陽光線:1,000〜10,000 lx

 

<輝度の例>

蛍光灯:7,000〜8,000 cd/m2、液晶ディスプレー:100〜300 cd/m2

 

<光源の種類>

光源には次のような色々なものがある。

• 蛍光灯(D65、昼光色、昼白色、白色)

• LED

• 水銀灯

• ハロゲンランプ

• ナトリウムランプ

• 白熱球

• 赤外線ランプ等

それらの中で試験評価用に使用される光源は D65蛍光灯だが、これまで一般家庭やオフィス等で最も普及してきた光源は白色蛍光灯である。また、赤外線ランプやナトリウムランプは紫外線域がほとんどないため、蓄光材の励起には不向きな光源である。現在、急速に普及している LED 光源についてはメーカーが多く、色々な種類があるため、紫外線測定器(紫外線強度計)で紫外線量を測定して励起効果を評価する必要がある。

5.人の目で発光が認識できない場合について

蓄光体を観察する際、人の目では発光を認識できない場合があるが、次のようなケースが挙げられる。

蓄光体が光を吸収していない場合:バッグやポケットの中など、光がない所に⻑時間入れておいた後など。バッテリーに例えると充電されていない状態。

若干でも周囲からの光の浸入がある場合:夜間の月あかりの下やカーテンの隙間から光が漏れて入っきている暗室の中など。映画館のスクリーンやテレビなども外部からの光が入ると見えにくくなるのと同様。

6.蓄光(蓄光体、蓄光機能)の必要性

人が物のシルエットや存在を認識できる程度の暗さであれば、非常時においても肉眼で判別できるため危険性は低く、蓄光材の必要性も小さい。しかしながら、人や物の存在がほとんど認識できないような暗闇(Fig.1(A)の状態)が発生する場所において蓄光材は有効に機能する。